トランプを勝利に導いたマーケティング。経営者が知っておくべきその本質とトレンド。

全世界に衝撃が走ったトランプ大統領の誕生。大方の予想を裏切って、大逆転で勝利を手にしたと言われているトランプ氏。当選後は私生活の豪華絢爛ぶりや、氏のお孫さんもピコ太郎のPPAPに夢中だといった話などまで伝えられ、注目の高さが伺えますがその一方で、超一流であるビジネスマンとしての顔が報道されています。
今回の勝利について「隠れトランプ支持層がいたからだ」で片付けられてしまうことが多いですが、そこには勝利につながったトランプ陣営の戦略やマーケティングがありました。
そこを紐解いていくと、今回の勝利も納得のトレンドをつかんだマーケティング手法と効果を最大化させるための重要なポイントが見えてきます。今回は、経営者やマーケッターであればおさえておきたい、大統領選にみる、"本質を抑えた活用法"を見ていきます。
トランプ陣営の戦略を「マーケティングの基本」から考えてみる
①基本から考えるトランプ陣営が目指すマーケティングとは
まずは基本的にのっとって軸になる部分から見ていきましょう。
マーケティングの基本とはなんでしょうか。いろいろな解釈の仕方があると思いますが、この言葉に集約できるのではないかと思います。
マーケティングとは、
・商品の価値・魅力を
・お客さんに
・伝えてわかってもらうこと
これを今回の大統領選に置き換えてみます。
トランプ氏が目指すマーケティングとは、
・トランプ氏、もしくは大統領になった場合に予想される将来の価値・魅力を
・投票してもらいたい人々に
・伝えてわかってもらうこと
では、これを実現するために何をしたのか、次のステップから具体的にみていきます。
②お客さん(ターゲット)について考える
トランプ陣営がターゲットにした「投票してもらいたい人々」とはどのような方々だったのでしょうか。マーケティングにおいて、この対象を明確にすることは非常に大切なことです。
メディアでは氏の過激な発言が繰り返し取り上げられており、支持者に対するイメージとして、白人の低所得者、人種差別主義者、女性蔑視などが定着しているかもしれません。その為に本来の支持者は名乗りにくく、外からは見えにくいという状況がありましたが、以下のように考えられています。
・白人の低所得者
・社会的に地位が低い
・生きていくのに精一杯
・教育水準が低い
・これまでの政治に失望している
・今後の政策についての考えはない
・ますます増加する移民に不満を募らせている
~自分たちの仕事が奪われている
~かつてはマジョリティだったが、移民の流入で相対的に人口に占める割合が減少、
そのうちマイノリティになるかもしれないという不安がある
~アメリカ国民が納めた年金が移民に使われていることに不満がある
相手が定まると、どう伝えたら良いかが見えてきます。
日常生活で誰かに話をするときでも、相手によって伝わりやすいように話し方を変えるのと同じことです。マーケティングでペルソナ設定をするのはその為でもあります。
③伝え方を考える
上記のようなターゲットに対してトランプはどのような伝え方をしてきたのでしょうか。まず思い出されるのが、何かと話題になった「過激な発言」です。
「メキシコとの国境にメキシコ政府の金で壁を作らせる」
今やとても有名な発言ですが、このような過激ことを言うことで、トランプに関心が無い人も、政治に関心が無い人も、まんまと気になり、振り向いてしまうわけです。特にトランプ陣営がターゲットとしている、「政権運営に不満はあるが、関心は無い」という人々を振り向かせるには大いに効果を発揮したと思われます。実際、この発言を知っている人は多いと想いますし、メディアでも繰り返し報道さえれています。いくら良いことを言っていても、聞く耳を持ってもらえなければ意味がない。まずは「振り向かせる」ことをし、聞いてもらえる状態を作りました。
さらに話し方にも重要なポイントがあります。上記にあるようなターゲットとしている人々の目線に合せて話したのです。彼らが普段使っているような、場合によっては下品な言葉で、ストレートでシンプル、そしてわかりやすく。また彼らにとって重要なのは政策そのものというよりはスター性やフィーリング。ターゲットとなる人々にしたら、トランプは"自分たちの言葉を代弁してくれるヒーロー"のように映ったことでしょう。
「過激な発言」とだけ伝えられることが多いですが、実はその裏には①相手を振り向かせる、②相手に伝わりやすい話し方をするということが、ターゲットを考慮した上で戦略的に行われた結果だということが見えてきます。
「トランプ大統領誕生」デジタルマーケティングではすでに勝負がついていた!?
消費者の情報取得手段としていまやテレビを超えたと言われるインターネット。この大統領選におけるWebによる両者のアプローチはどうだったのでしょうか。
実は、FacebookでもTwitterでもInstagramにおいても、当選前の「いいね!」の数は全てにおいてトランプがヒラリーを上回っており、その合計数はヒラリーの1.5倍を獲得していました。
YouTubeにおいては、ヒラリーはチャネル登録者数や再生回数においてトランプより多くありました。前述のターゲット層を踏まえると、政策そのものを動画で聞いてもらうというよりは、ライトに簡単に伝わるチャネルでしっかりと話題になるということが重要なトランプ陣営、このことはそんなに重要ではなかったと考えられます。
そして、テレビ広告はほとんど行わなかった一方で、驚くべきは無料で獲得した露出の多さ。額にして2億ドルともいわれており、それはヒラリー陣営が獲得した額の2倍をゆうに越えています。(下図参照)ここでも過激な発言が功を奏し、お金を使わなくてもマスメディアに取り上げられたのです。話題性も豊富でSNS上での拡散や議論の対象になりました。よく炎上もしましたが、それによりメディアが注目し、結果としてさらに多くの注目を集めるという流れも生まれ、良くも悪くも広くトランプのことが世界中に知れ渡りました。
(各候補の、Bought「購入」したメディアとFree「無料」で手に入れたメディアの比較。出典:The New York Times)
さらにネットにおいては、小口の政治献金集めで非常に大きな成果をあげました。デジタルの数字を見ると、今回の勝利はなんの不思議もないこと。データにしっかり現れていることがわかります。
まとめ
「我々はビジネスの世界で広く利用されている手段を選挙戦に持ち込んだ。」とは、トランプ陣営のデジタル戦略統括責任者、ブラッド・パースケール氏の言葉。
市場が望んでいることをしっかりと把握し、それを的確に提供する。
ある意味ビジネスにおいては基本とも言えることに忠実に行い、そこに卓越したテクニックがあわさったことが、今回の結果に結びついたと言えるでしょう。
いまの世の中においてWebでのマーケティングは必須。その取り組みの大切さを改めて思い知らされた出来事であるともいえるのではないでしょうか。