ソラトニワ編集長に聞く、ウェブ→リアルの誘導術

今やWebマーケティングによる集客施策は、ビジネスの主戦場がネットであろうがリアルであろうが、その区別なく取り入れられるのが当たり前の時代になりました。しかし運用している人の中には、ネットとリアルの境目に戸惑ったり、それぞれをどう扱うか悩んでいる人も多いでしょう。リアルとバーチャルの両軸で、 商業施設やリテイリング、地域活性のプロデュースを行なう『ノスプロダクター社』の菊永氏に、その融合方法と成功事例について聞きました。

ネットとリアルは対比する物じゃなくて、リアルを補完するもの

みなさん、最近ライブにいきましたか? CDなどのパッケージや音楽配信の売り上げ低迷と対照的に、ライブのマーケットは順調に拡大しているようです。これはリアルな体験に対して、ユーザーが価値を認めているからだと考えられます。

インターネットサービスも近年、Webメディアやチケットアプリなどからリアルなイベントに誘導する流れが増えていて、気になってる方も多い分野ではないのでしょうか。その点を質問すべく、Webメディアやネットラジオのサービスでソラトニワを運営するノスプロダクターの菊永喬氏にお話を伺いました。

なぜ、今リアルのイベントなのか

 

ソラトニワ2代目編集長 菊永 喬さん

植田(以下――)まず、はじめにソラトニワとはどういったメディアなのですか?

菊永:ソラトニワとは「家を飛び出して、街を、そして人生をもっと楽しもう!をコンセプトとしていて、そのためにポジティブで、ワクワクするような「面白そうなこと」をWebやネットラジオでたくさん届けていくメディアとして運営しています。

今は『体験型』なんて言葉がブームのようになっていますけど、それってスマホやアプリなど画面の中での体験はまだリアルでの体験の楽しさや多様性にかなわないんじゃないのかなと思って。でもそこを対比するより、ソラトニワでも番組がある『ingress』(※1)とか『2.5D』(※2)、『プロジェクションマッピング』などリアルとネットの融合したエンタメの方が楽しいんですよね。

そもそもネットとリアルは対比する物じゃなくて、リアルを補完したり拡張するのがネットだったはず。それなのにリアルかリアルじゃないか?を考えること自体がズレているんじゃないか、ネットもリアルも全てがゆるやかに繋がっていくのが未来の方向なんじゃないか、と思っています。

だから現在は「リアルだけ」にこだわらずネットでもリアルでも「誰かの1日を楽しくする」ようなコンテンツをたくさん届けていこう、という道の途中にいると考えています。

(※1) ingress:位置情報に基づいた多人数参加型モバイルオンラインゲーム
(※2) 2.5D:2Dと3Dの融合、例でいうとアニメと実写が一体となった物

見てもらえるコンテンツとは

――上手くいったイベントやコンテンツ事例など、見てもらえるコンテンツは、どのようなものが多いですか?

菊永:まず、イベントの世界だと常に『事前に知っていたら参加した』人たちが30%くらいいると言われています。それは機会損失ですし何とかして潜在している人たちにもイベント情報を届けていきたいと思っています。実際、イベントを主催する人や参加者、色々な人と話をしていると、特に若い世代を中心にライブやイベント、フェス、映画など積極的に外に出て行く人が増えているのを肌で感じているので、メディア側で出来ることはまだまだたくさんあるんじゃないかと。

対して情報の取得方法は人によって様々で、SNSしか見ない人、検索、ニュースアプリ、動画サイト、ラジオ、街の看板や中吊り広告、新聞やテレビだけな人もまだまだいます。

ソラトニワではそこを多面的に使ってたくさんの人に届けていきたいと思っていますが、イベントのコンテンツ次第で向き不向きがあるので、『潜在している人の特性』に合わせて、うまくハマればたくさんの人に見てもらえる、という状況でしょうか。次は動画をどう使うかも含めて試行錯誤している状況ですね。

具体例を出すのが難しいんですが、イベントの主催者をハマりそうなラジオ番組のゲストとして出てもらったり、記事もタイトルやキャッチの画像とSNSの種類と投稿する時間とを個別に考えて、興味を持ちそうな人たちに向けて発信するという、至極当たり前のことをやっています。WebでPVを取れるものと実際に人が集まるイベントって違うので、ただバズらせてもダメなのが難しいのでKPI設定も含めて試行錯誤ですね。

電子チケットの啓蒙をおこなってる

 



――指標にしているKPIは?

菊永:多面的に展開している関係で、全てを横断的に評価できる指標というのは作っていません。またイベントに関しても第1回開催の場合は売上よりも認知度とか知名度を重視している場合もありますし、ある程度回を重ねたイベントであれば、売上は計算できるので今まで知らなかった人や来たことが無い新規顧客へのリーチを望んだりします。

ソラトニワではYahoo!チケットやLivePocketチケット(電子チケット)のイベント情報も発信しているのですが、そちらでは主に『券売』と『電子チケットの啓蒙』を行っていて、券売に関しては定量的な指標ですが、電子チケットについては長い目で見ていく必要があると思っていて短期的な指標は置いていません。でもすごく便利なので慣れたら戻れなくなると思いますよ。

理想では紹介するイベント毎に意義や主旨、主催者の意図を把握して届けやすい切り口やターゲットを考えつつ、その外側にも届けられるように考えていく。この部分に注力していきたいのですが、これは評価しづらい部分なので、記事やイベント毎のPVとUUを見つつ、個別よりも全体的にPVと券売とSNSでの反応のバランスを見ている状態です。

あとは、実際にイベントの受付に立って紙のチケットと電子チケットの差を見たり、現場やTwitterなどを追ってユーザーの生の声を取り入れるようにしています。

リアルな体験を共有できる場所を作る

――今後のお話しを聞かせてください。

菊永:オンは24時間戦えますか、オフは家族サービス、そんな価値観の親世代では、オンとオフのように日常と非日常の間にも人間関係にも明確に線がありました。今はその境界がすごく曖昧で非日常も日常に取り入れられる楽しい時代だと思います。

僕はある意味、Webとリアルの間で仕事をしているし今までもそういう働き方をして来ましたが、Webコンテンツでもリアルのイベントでも価値を出せる仕事が『人』に依存するのは間違いないと思います。だからこそ本当に価値がある物って『人間のリアルな体験』なんじゃないか。

自分と同じ目線で同じように考えて、同じ時代を生きている人たちの『リアルな体験』を共有できる場所が作れた方が、きっとみんな楽しいよね。流行りな言い方をすれば『まだ有名人がテレビや雑誌でオススメする物を追いかけて消耗してるの?』ですか(笑)。

技術の進歩と共にクリエイターのアイデア次第でイベントの表現や体験も、できることが加速度的に増えていきている時代だし、ジェール・ヴェルヌの『人間が想像できることは人間が必ず実現できる』って言葉を信じるなら、これからもっと楽しいことが増えていくはずですよね。

体験に意味がある

菊永:僕は今東京を中心にして生活していますが、今までに47都道府県は全部行って自分の目で見て体感してみたんですけど、行かないと分からないことってたくさんあったし、行ったからこそ日本にも世界にも、もっと行きたい場所も増えてきた。

ランサーズにも日本中にユーザーがいると思うんですけど、その人達がそれぞれの人生を、日常を生きて何かの『体験』をしているはずで、それって他の地域にいる人には体験できない日常であり人生なんですよね。

ソラトニワを、そういった人たちの「楽しい」「面白い」が集まる場所にしていきたいし、可能なら「ただ安いから」だけじゃない仕事を依頼したい。『体験を伝えられる人』や『新しい体験を作れる人』と一緒に仕事をできたら僕らも楽しいですし。僕らが楽しくできればもっとたくさんの人が楽しめるようになると思うんですよね。

まぁ未来は分からないですけど、そうなったら楽しそうだなぁってことをこれからも想像していきたいと思います。

< おわり >